(オープニング・おり鶴と様々な事故現場の写真が挿入される)
(踏切→町並み→交差点から歩く園児達にズーム)
(車の往来が激しい道路)
美恵子「危ないですよ、気を付けて。気を付けてくださーい」
(小林宅前?)
武子「あっ!…おはようございます」
美恵子「おはよう」
ふさ「あら、木下さんの奥さんお当番ですか?ハハハ…」
美恵子「おはようございます」
ふさ「よろしくお願いします」
美恵子「じゃあ行ってきますー」
ふさ「いってらっしゃい」
美恵子「ハイ、向こうよ、ハイ、気を付けて~」
(良作の商店前)
美恵子「さ、もう少し向こう行ってー。危ないですよー」「ハイボクぅ?ハイハイ早くー」
良作「アハハハッ…」「おい、一郎どした?皆さん来たよー?」
きよ子「はい」
(きよ子、一郎が店の中から出てくる)
園児「おはよぉございます」
きよ子「気を付けるんですよ、自動車が多いんだから」
一郎「だいじょおぶ」
良作「奥さん、ご苦労様です」
美恵子「おはようございます。あ!そうそう、こないだの父兄会…」
良作「やぁ~、勘弁してくださいよ~」
きよ子「奥さん、今度の父兄会に私も出ますから。なにしろ店が忙しいもんで」
美恵子「…で、それでね、結局集まったのは女ばかりでしょ。お金の話になると『家へ帰って主人と相談して―』って言うし、分からない話になると『園長先生にお願いします』ってことでしょう、園長先生も困ってしまって…」
(ジャンケンをして遊ぶ園児達)
きよ子「ほんと。なんだかんだってワイワイ騒いでも子供のことは結局女任せ」
美恵子「園長先生もね、園内のことは良いって仰っているんですよ。でも通園中の交通問題とか、園外保育にはも少し家庭でも積極的にって仰ってるんですよ」
良作「や、奥さん分かってるんですよ、デマスデマス今度は積極的に出ます」
美恵子「まあっ!フフフッ」
きよ子「何言ってんですよ、あんたはいつも口先ばかりなんだから」
良作「…」
美恵子「ンフフフ…」
良作「はは…」
美恵子「じゃ、行ってきます」
きよ子「お願いします」
園児達「いってきまーす」
美恵子「さあ、気を付けてー?」
(バス停、バスが来る)
先生「はい、武子ちゃん、一郎君、はいボクたちー、ハイ気を付けてー」「いってらっしゃい」
園児達「いってきまーす」
美恵子「いってらっしゃーい」
(良作の商店前、バケツで水を撒こうとしたきよ子の前にバスが通り泥が跳ねる)
きよ子「まったくやたらに車が多くなってきて…」
良作「何をブツブツ言っとるんだい。通る自動車にいちいち腹を立てていたんじゃ腹がいくつあったって足りやしない。…ったく、こう自動車の数ばかり増えたんじゃ、今に車の上を自動車が走ることにならぁな。それにしても一郎達はあぶねえなあ」
(電話が鳴る)
きよ子「はい、はいはい、承知いたしました、毎度ありがとうございます」
(幼稚園の教室、糸電話で遊ぶヒロ子と一郎)
ヒロ子「もしもし、一郎さんですか?」
一郎「はい、一郎です、毎度ありがとうございます」
ヒロ子「いつも父兄会にお母さんばかりでは困りますから、今度はお父さんも来るように言ってくださいね?」
一郎「はい、承知しました積極的に出るようにします」
園児達「わあっ、はははっ」
先生「アハハハ、ハハハ…」
(屋外)
良作「あの道を毎朝子供達が幼稚園行くのは危ないですなあ、うんー…」
美恵子「えぇ、こないだの父兄会でもスクールバスを買う話や、バス通りのこちら側だけに分園を作ったらと色々話は出るんですけどねえ…、とにかく決められた時間にみんなが集まるってことがなかなかできないんですよ」
良作「そんなこと言ってるうちに事故でも起きなきゃいいがねえ。今日は間に合ってますか?」
美恵子「えぇ、今日は結構ですわ」
良作「じゃ、またどうぞ」
(バス停、帰りのバスが来る)
先生「さーおバスが来ましたよー、気をつけてね、一人ずつ順番に乗りましょうね。はい、はい、大丈夫?じゃ、気をつけてね、さようならあ」
園児達「さようならあ」
先生「さよならー、さよならー」
園児達「さようならあ」
先生「さよならー」
園児達「さようならあっ!」
(走行するバス車内からの町並み)
(バス車内)
(赤信号になる交差点)
バスガール?「停止信号のため少々お待ちください」
園児「赤見てとまれぇ」
園児「青見てわたれ」
園児達「赤見てとまれ!青見てわたれ!赤見てとまれ!青見てわたれ!赤見てとまれ!青見てわたれ!赤見てとまれ!青見てわたれ!」
(青になり走り出すバス)
(バス停で待つ美恵子、バスが来る)
ヒロ子「あっ!おかあさんだ」
美恵子「おかえんなさーい」
園児達「ただいまー!」
美恵子「お利口だったー?」
園児「はい」
園児ら「はーい」
美恵子「今日何作ったの?」
ヒロ子「電話つくったのよ」
美恵子「そおー」
(バスから美恵子の知り合いも降りてくる)
美恵子「あら、まあー」
美恵子の知り合い「美恵子さんーしばらくー」
美恵子「しばらくー、どうしてらっしゃるのかと思ってたわー」
美恵子の知り合い「あの…(聞き取り不能)」
美恵子「そうよ、みなさんずいぶんいらしわよ、う~ん」
(一郎、母きよ子を道路に向こう側に見つける)
美恵子の知り合い「ほんとですって…」
美恵子「そうなのよのねえ~」
一郎「あっ!おかあさんだ!」
(一郎、道路に飛び出す。トラックが迫る)
美恵子「一郎ちゃん!!」
きよ子「ああっ!!」
(急ブレーキを掛けるトラック)
(悲しげなBGM、揺れる木々のカット)
(病室・一郎を見て涙ぐむきよ子とうなだれる美恵子。ベッドに横たわる目の部分を包帯で覆われた一郎。そこへ医者と看護師が回診に来る)
看護婦「回診です」
医師「ぃや…」
きよ子「先生、いかがでしょうか」
医師「傷は大丈夫」
医師「心配なのは、失明」
きよ子「失明ってまさか、めくらになるんですか!」
医師「精密検査の結果が出ないと何とも申し上げられませんが…、失明するかもしれません」
(一郎から目を逸らすきよ子。いたたまれず病室を出る美恵子)
(病院の廊下で泣く美恵子)
「ああ…、うっうぅ…」
(商店の前で立ちすくむ良作)
「一郎…勘弁してくれ。俺、も少し注意してやれば良かった…」
(幼稚園の園庭・木の下に園長先生や園児らが集まっている)
園長「きのう、三田一郎君がトラックに撥ねられてケガをして、病院に入院しました。道路を渡ろうとしてトラックにぶつかったのです。皆さんは道路を渡るときにはどうしたらいいか、先生がいつもいつもお話してますねえ」
(神妙な顔つきで話を聞く武子とヒロ子)
園長「園内ではそれがよーく守られていました。先生は、みんなとてもお利口だと思ってました。でも、園外でそれが守られていなければ、何にもなりませんねえ。一郎君は、お当番のお母さんのそばを勝手に離れて、道路を横断しようとしたのです。そして、トラックに撥ねられました。みなさん、交通規則は園内だから、先生が見ているから守る、というのではいけませんねえ。いつでも、どこでも、必ず守るように、もう一度みんなでお約束しましょう。そして、一郎君が一日でも早く良くなって、元気に幼稚園に来られるようにお祈りしましょうねえ」
(悲しげなBGM・病室、横たわる一郎)
一郎「おかあちゃん」
きよ子「なんだい一郎」
一郎「おかあちゃん、ヒロ子ちゃんのおかあちゃん何持ってきてくれたの?」
きよ子「一郎ちゃんの大好きなケーキだよ、真ん中に赤いさくらんぼが乗っかってんの」
一郎「おかあちゃん、ちょうだいよ」
美恵子「一郎ちゃん、ケーキがこんなに。ほーら」
一郎「かあちゃん、真っ暗で赤いさくらんぼが見えないよ。」
美恵子「ハッ…ウッ…」(顔を逸らす)
一郎「はやく、電気、点けてくれえ、かあちゃん、はやくう」
きよ子「辛抱するんだよ、もうすぐ電気点けて、明るくしてやるからね。エッフうぅ…ぅぅぅ…」
美恵子「私が悪いんです、当番だった私が悪いんです。ッンエッウッウッ…」
きよ子「…そんなことありませんよ奥さん、毎日毎日看病して頂いて、申し訳ないと思ってます」
(ノック音、撥ねたトラックの運転手が見舞いに来る、美恵子退室)
運転手「いかがですか。これ、つまんないもんですけど。…どうぞ」
きよ子「どうも度々…」
運転手「急ブレーキを掛けたんですが、荷が重すぎたようでスリップしてしまいまして…」
(沈痛な面持ちの運転手とそれを見つめるきよ子)
(一郎に鉄腕アトムの漫画を読み聞かせる美恵子)
美恵子「アトムはエネルギーが切れてしまいました。『あっ!はやくはやく』ウランちゃんがお茶の水博士を連れて走ってきました」
(園長先生と園児が見舞いに来る)
園長「あ、木下さん」
美恵子「あ、どうも」
園長「どうも。どう?一郎君」
美恵子「一郎ちゃん、園長先生よ」
一郎「こんにちは」
先生「一郎さん、今日はね園長先生とお友達の代表がお見舞いに来たんですよ。一郎さん元気なって良かったですね」
園児達「一郎さん元気で良かったですね」
園児「千羽鶴よ、一郎ちゃんはい」
園児「千羽鶴よ」
(希望が見えてきた的なBGM)
きよ子「園長先生、みなさん、ありがとうございます。お店が忙しいもんですから、すっかり木下さんの奥さんにお世話になっちゃいまして。あぁ~、綺麗な千羽鶴」
「ぼく千羽鶴みたいなあ」
「もう少しね、辛抱して。今、病院の先生にお聞きしましたらね、ここ二、三日が勝負ですって。きっと見えるようになりますよ、きっと…」
(幼稚園の園庭→母親らが集まる教室)
ふさ「今度の一郎ちゃんの事故にしてもですね、木下さんがもしお友達と会わなかったとしても、一郎ちゃんはお母さんのところに掛けていったでしょうし…」
「トラックも当然手前で止まる位置でブレーキを掛けているんだけれど、積み荷が超過していたために、スリップしたというんです。こうしてみると、何が原因だか分からなくってしまいますわ。ただ、私が考えられることは、子供の親として事故から守るために、どれだけの責任を果たしているかってことなんです」
母親1「園児を交通事故から守るためには、幼稚園はスクールバスを用意すべきじゃないんでしょうか」
園長「スクールバス購入については、先般代、各方面に働きかけております。今後は、何をおいても、たとえ小さなバスでも、幼稚園として持つようにしたいと思っております。ふっ、幸いなんとか目鼻が付きそうなので、今少々、お待ち願いたいと思います。
ふさ「そのぉ、スクールバスは一日でも早く実現できるようにお願いします。でも、そのバスだって今日明日ってわけには参りませんでしょ?今問題なのは今日のことで明日のことなんです。それに、そのスクールバスが出来たとしても、子供を交通事故から全く守ったとは言い切れませんわ」
母親1「送り迎えの当番でも問題があるんじゃないでしょうか。たとえば一人を二人にするとか」
母親2「大体1人で、3人が限度なのではないかと言われていますが」
母親3「そうね、なんかのとき…、片手で2人ずつとしても4人ですものね。5人園児を受け持つのは無理なのでしょうね」
ふさ「当番を2人にすることは大変良いことだと思います。やはり…、問題は子供自身にもあると思いますが、その子供のしつけに関しては…」
母親3「各人の家庭でどのような子供のしつけをしているのか、ということが問題になってきますねえ」
母親2「私なども、どっちかというと幼稚園に子供を任せっぱなしにしたところがありましたからね」
ふさ「幼稚園の教育に関して無関心だったということは誰にでも言えることですわ。園児の親として、幼稚園に協力し、援助していかなければなりませんものねえ!」
母親1「これからは、教材や施設についてもより一層注意を払っていきたいと思っておりますわ」
園長「私どもも交通事故防止に関しては、さらに、留意していきたいと思っております」
母親2「結局、子供も、親も、先生も、自動車の運転手も、全部が注意しなければならっ…たいんですね(ならないんですね)」
ふさ「そうなんですよ、私たちは私たちで子供も含めて、交通道徳を身に着けなければいけませんし、相手方にも万全の注意を払ってもらわなければいけません」
母親2「こっちが注意しても、向こうからやって来ますものね」
美恵子「あのぉ……、この前、一郎ちゃんのとこへお見舞いに来ましたときに、子供達が千羽鶴を作って持ってきました。あたしたちも、千羽鶴を作って、街頭で運転手さんたちに事故防止を呼び掛けたら、どうでしょうか」
ふさ「いいことですわ!どうですか皆さん」
母親1&3「…賛成ね!」
母親2「良い思いつきですわ」
(口々に賛辞の弁を述べる母親達)
園長「今日のような有意義な会合を、どうして早く持たれなかったのか…、悔やまれます」
(お遊戯オルガン的なBGM・園庭で園児達と交通指導をする先生)
先生「道を歩くときは右側を歩きましょう。人は右、車は左の対面交通ですよ。道を横切るときはどうしましたか?横断歩道を渡るのでしたねえ」
(シャモジの信号機)
先生「信号の見方は、赤は止まれ、黄色はまだよの信号でしたね、青い色は人も車も行きなさい。踏切は一度止まって右左をよーく見て渡るのでしたね」
(BGM・折り紙の鶴のアップから、おり鶴を作る園児・母親・先生らの様子が映る)
(おり鶴が吊るされている一郎の病室)
医師「経過は良好です。包帯を取ってみましょう」
(包帯を解いていく医師、固唾を飲んで見守る良作、きよ子、美恵子ら)
医師「さあ、一郎、静かに目を開けてごらん。一郎、怖がることはないんだよ、さあ、お友達の作ってくれた千羽鶴があるよ。目を開けてごらん?見えるかなー?何も見えないかな?どう?一郎君!」
きよ子「一郎!」(暗転)
(オルガンのBGMともに、園庭でブランコやジャングルジムで楽しそうに遊ぶ園児達の映像、ブレーキの音ともに再び病室内へ)
一郎「おかあちゃん、明るくなったよ。あ、父ちゃんが見える」
(BGM:パヴァーヌ Op.50)
(ホッとした顔をする良作)
医師「さあ、見えるね?よく見てごらん」
(懐中電灯での灯りを目で追うよう指示する医師)
医師「大丈夫です成功ですよ」
(笑顔で一郎を見つめる両親達)
一郎「あ、千羽鶴だ」
(病室に吊られた千羽鶴のアップ→手を振る園児達→空に浮かぶ大量の千羽鶴の映像)
(交差点)
?「交通事故防止の千羽鶴です、はい」
園児達「お願いします」
先生?「交通事故防止の千羽鶴です」
園児「お願いします」
先生?「お願いいたします。さ、次よ、いらっしゃい」
?「お願いしまーす」
園児「お願いしまーす」
先生?「交通事故防止の千羽鶴です」
園児達「お願いしまーす」
先生?「さ、今度はね、こうしましょう」
美恵子「交通事故防止の千羽鶴です」
ヒロ子「一郎ちゃん鶴よ」
(BGM)
タクシー運転手「どうもありがとう!」
(様々な自動車の車内に吊るされているおり鶴の映像。鶴の下には『一郎鶴』と書かれた紙が吊り下げられている)
(病室)
一郎「おかあちゃん、ぼくも武子ちゃん、や、ヒロ子ちゃんたちと、千羽鶴配りたいなあ」
きよ子「だめよ、一郎ちゃんはまだケガが治っていないんですもの、ねえ?」
(道路、親らしき人と子供3人)
母親「ね、気をつけてね、車が止まったらお願いしまーすって行きましょうね」
子供「あ!スクールバスだ」
(スクールバスが走っていく映像)
(病室)
先生と園児達「「一郎ちゃーん」」「「一郎くーん」」
(朗らかな?BGM)
一郎「おかあちゃん、スクールバス、ぼくらの幼稚園のスクールバスだよ」
(病院の下に止まっているスクールバス)
先生?「一郎ちゃん」
園児達「「一郎ちゃーん」」
先生「幼稚園に行く前に乗りましょうね」?
園児「一郎ちゃーん」
園児「一郎ちゃーん」
(木に吊るされたおり鶴)
(街中を走行するバスの後ろ姿)
ナレーション「おり鶴運動―――それは決して華やかでもなく、また大がかりな運動でもなかったが、我々はそこになんという美しくも清らかな、人間愛に燃えた気高い姿を見たことであろうか。一郎鶴よ、今は僅か数十羽に過ぎない、それがやがて千羽となり、万羽となって、海を渡り、山を越えて、道行く人や車を運転する人の心に、人名の尊さを呼び掛けてくれる日のはやからんことを切に祈っている」
(「終」の文字のタイトルバック)